奥歯の金属や変色した詰め物を、白く、周囲の歯に馴染むようにやり直したい。その希望に応える方法の一つが、ダイレクトボンディングです。

コンポジットレジンという白い樹脂系の材料を、お口の中で歯に直接接着し、失われた色と形を回復します。古い詰め物を外した後の形を生かしやすく、残っている天然の歯を保ちながら、見た目とかみ合わせを整えることを目指します。

ダイレクトボンディングで治療可能かどうかは、残っている歯の位置と厚み、かむ力のかかり方、接着面を唾液や出血から隔てられるかによって変わります。ご希望と歯の状態を確認し、ダイレクトボンディングで対応できる範囲をご説明します。

ダイレクトボンディングの適応

適応の判断では、主に次の点を確認します。

  • 神経が残っている歯か
  • かむ力を受ける部分に、十分な天然の歯が残っているか
  • 歯に亀裂が入っていないか
  • 欠損が歯ぐきの深い位置まで及んでいないか
  • 治療器具が届き、接着面を乾燥した状態に保てるか
  • かみ合わせによって一部に強い力が集中していないか

接着できる面積が広ければ治療できる、というものではありません。大切なのは、天然の歯がどの位置に、どのような厚みと形で残っているかです。

当院の奥歯のダイレクトボンディングは、基本的に神経が残っている歯を対象としています。神経を取ってある歯については、残っている歯の量とかみ合わせを確認し、別の修復方法を検討します。また、明らかな亀裂がある歯、かむ力を受ける咬頭が大きく失われている歯、治療に必要な開口量を確保できない場合も、適応が難しくなります。

既存修復物を除去した後に残る歯質

詰め物の下がどのような状態かは、外から見えている範囲だけでは判断できません。

古い詰め物を外すと、その周囲や内側に虫歯が広がっていたり、歯に亀裂が入っていたりして、予想していたよりも天然の歯が失われていることがあります。

同じ大きさの詰め物に見えても、外した後に四方の壁が残っている歯と、一部の壁や咬頭まで失われている歯とでは、修復後に力を支える条件が異なります。

したがって、ダイレクトボンディングの適応は、欠損の面積だけでは決まりません。残っている歯質の位置、厚み、連続性まで確認する必要があります。

直接修復と間接修復に必要な歯質形成

型を採り、口の外で詰め物を製作する方法では、完成した修復物を歯に入れられる形に整える必要があります。

材料に必要な厚みを確保し、修復物が途中で引っかからずに入るようにするため、歯の内側にある引っかかりを修正しなければならない場合があります。虫歯を取り除いた後の形を、そのまま使用できるとは限りません。

ダイレクトボンディングでは、コンポジットレジンを柔らかい状態でお口の中に置き、光を当てて硬化させます。そのため、虫歯や古い修復物を除去した後に残った不規則な形を生かして修復できます。

ただし、直接詰められることが、どのような大きさの欠損にも対応できることを意味するわけではありません。残っている歯だけでは、かむ力を支えられない場合があります。

大きく失われた部分をコンポジットレジンで埋めることが技術的に可能であっても、その修復方法が歯に加わる力に耐えられるかは、別に判断しなければなりません。

削る量を最小に抑えるという考え方の背景は、別ページ「接着歯学とMI審美歯科」で解説しています。

エナメル質と象牙質への接着

ダイレクトボンディングを可能にしているのは、歯とコンポジットレジンの接着です。

ただし、歯は均一な物質ではありません。外側のエナメル質と、その内側にある象牙質とでは、構造も接着の仕組みも異なります。

エナメル質は、ほとんどが無機質でできた硬い組織です。酸で表面を処理すると微細な凹凸ができ、そこに樹脂が入り込んで硬化することで接着します。

象牙質には、水分と有機質が含まれています。内部には歯髄へ向かう細い管が無数に走っており、エナメル質と同じ方法では接着できません。象牙質のコラーゲンの網目に樹脂を浸透させ、樹脂含浸層と呼ばれる接着層を作ります。

窩洞、すなわち虫歯や古い詰め物を除去した後の穴が深くなるほど、接着条件は難しくなります。歯髄に近づくにつれて象牙質の管は太く、数も多くなり、歯の内側から水分がにじみ出やすくなるためです。

接着できるかどうかは、単に接着剤を塗ったかどうかでは決まりません。どの組織に、どの深さで接着するか、その面をどのように処理し、水分をどう管理するかが関係します。

防湿と接着条件

接着処置の途中で唾液や歯ぐきからの水分が入り込むと、歯の表面に樹脂が浸透する過程が妨げられます。

接着面を水分から隔てるために使用するのが、ラバーダムというゴムのシートです。治療する歯だけをシートの外に出し、舌、頬、唾液などから隔てた状態で処置を行います。

ラバーダムの目的は、単に治療部位を見やすくすることではありません。接着処置を行っている間、接着面の状態を一定に保つことにあります。

ただし、欠損が歯ぐきの縁より深い位置まで及んでいる場合には、ラバーダムを使用しても、歯ぐきからにじみ出る液や出血を避けることが難しくなります。これも、ダイレクトボンディングの適応を判断する条件の一つです。

コンポジットレジンの重合収縮

コンポジットレジンは、光を当てて固まるときに収縮し、歯との接着面に力が生じます。また、光が届く深さには限界があります。十分に硬化させるには、使用する製品に適した厚みと照射条件を守る必要があります。

当院のダイレクトボンディングでは、色や透明度の異なる材料を重ねながら形を作り、それぞれに光を当てて硬化させます。一層の厚み、光を当てる方向と時間を確認することは、希望する見え方と、材料を適切に硬化させることの両方に関わります。

重合による光学特性の変化

コンポジットレジンは、樹脂の中に無機質の微粒子を混ぜた材料です。

硬化する前は、樹脂と微粒子とで光の曲がり方が異なるため、その境界で光が散乱します。光を当てて樹脂が硬化すると、両者の光学的な差が変化し、材料の中での光の通り方も変わります。

硬化後のコンポジットレジンは、周囲の歯の色の影響を受けて見えます。詰めた部分と天然の歯との境界が馴染んで見えるのは、材料そのものの色だけでなく、この光の通り方も関係しているためです。

ただし、光が通れば必ず色が合うわけではありません。

天然歯には、半透明のエナメル質と、色のもとになる象牙質があります。コンポジットレジンでその見え方を近づけるには、色だけでなく、透明度の異なる材料をどこに、どの厚みで置くかを考える必要があります。

また、治療直後には馴染んで見えても、年月の経過によって材料が着色したり、表面の艶が変化したりして、天然の歯との差が現れることがあります。

臼歯の残存歯質と咬合力

前歯と奥歯では、同じダイレクトボンディングでも難しさの性質が異なります。

前歯では、色、透明感、表面の質感が外から見えます。奥歯では、見た目に加えて、強いかむ力をどの部分で受けるかが問題になります。

奥歯のかみ合わせ面には、頬側と内側に山があります。この山を咬頭といいます。かむ力は上下方向だけでなく、二つの咬頭を外側へ開こうとする方向にも働きます。

前後の歯との境にある帯状の隆起を、辺縁隆線といいます。辺縁隆線は、頬側と内側の咬頭をつなぎ、歯が外側へ開こうとする動きに抵抗する構造の一部です。

辺縁隆線や咬頭が大きく失われると、残った歯にたわみが生じやすくなります。コンポジットレジンを接着できたとしても、かむたびに歯と材料の境界へ力が集中すれば、欠け、接着界面の劣化、歯の亀裂につながる可能性があります。

適応の判断では、前後の辺縁隆線がどのように残っているか、強い力を受ける咬頭に十分な厚みがあるか、歯に亀裂がないか、修復後にどの位置で上下の歯が接触するかを確認します。

上の奥歯では主に内側の咬頭が、下の奥歯では主に頬側の咬頭が、強い力を受ける側になります。その部分が大きく失われている場合には、咬頭を覆って支える修復方法を検討します。

ダイレクトボンディングの適応を分けるのは、接着できる面積だけではありません。天然の歯が、力を支えられる形で残っているかどうかです。

隣接面形態の再現

奥歯のダイレクトボンディングで、特に技術的な難しさがあるのが、隣の歯と接する部分です。

治療では、隣の歯との間にマトリックスと呼ばれる薄い板を差し入れ、その板に沿ってコンポジットレジンを詰めます。

マトリックスには厚みがあります。そのまま詰めて板を抜けば、厚みの分だけ隙間が残ります。そこで、ウェッジや専用の器具を使用して歯をわずかに離し、マトリックスを外したときに隣の歯と適切に接するよう調整します。

隣の歯との接触は、点で触れていればよいわけではありません。適切な高さと幅を持った、小さな膨らみとして作る必要があります。

接触が緩ければ、食事のたびに食べ物が挟まり、歯ぐきの炎症につながります。強すぎれば、フロスが通らない、歯が押されるように感じるといった問題が起こります。

マトリックスを安定させるためには、残っている歯の形も重要です。歯の四隅にある角が残っていれば、マトリックスやウェッジを安定させやすくなります。その角が失われていたり、欠損が歯ぐきの深い位置まで及んでいたりすると、器具を適切な位置に保持することが難しくなります。

ダイレクトボンディングの適応が、欠損の面積だけでは決まらない理由の一つがここにあります。

治療の流れと所要時間

古い詰め物を外した後、拡大視野のもとで内部の状態を確認します。う蝕検知液も使用しながら、除去する必要のある部分と残せる部分を見極めます。

深い虫歯では、歯髄までの距離や歯の反応を確認し、歯髄を保存できる可能性と、修復に必要な条件の両方を考えて処置範囲を判断します。

その後、ラバーダムで治療する歯を周囲から隔て、歯の表面に接着処理を行います。隣接面を含む場合は、マトリックスやウェッジを設置し、隣の歯との接触を作ります。

コンポジットレジンは、一度に詰めるのではなく、色、透明度、硬化時の収縮、光が届く深さを考えながら、少量ずつ積み重ねます。

最後に、奥歯の溝と咬頭の形を整え、上下の歯が接触する位置を確認します。隣の歯との接触、フロスの通り方、段差の有無を調べ、段階を分けて表面を研磨します。

当院では、奥歯1本のダイレクトボンディングに約60分を確保しています。

この時間のすべてを、材料を詰める作業に使うわけではありません。古い修復物の下を確認すること、除去範囲を見極めること、接着面を水分から隔てること、隣の歯との接触とかみ合わせを作ることまでが、一つの治療です。

将来の補修と再治療

ダイレクトボンディングが部分的に欠けたり、すり減ったりした場合には、状態によっては修復物のすべてを外さず、欠けた部分を補修できることがあります。

補修する部分の表面を新しく出し、接着処理を行ったうえで、新しいコンポジットレジンを追加します。

ただし、表面の欠けに見えても、内部に虫歯や亀裂がある場合があります。接着面が広い範囲で劣化している場合や、残っている歯の状態が変わっている場合にも、部分的な補修だけでは対応できません。

当院で行った治療については、治療時の歯の状態と処置内容を記録しています。その記録と現在の状態を照らし合わせ、補修で対応できるか、全体をやり直す必要があるか、別の修復方法へ変更すべきかを判断します。

天然の歯を残すことは、その日の仕上がりだけに関係するものではありません。
歯のどの部分が、どのような形で残っているかによって、将来その歯に何か起きたときに選べる治療は変わります。

奥歯の詰め物を白く、周囲の歯に馴染むようにやり直すこと。その希望に応えながら、今回の治療後にも、できるだけ多くの選択肢が残る修復方法を選びます。

ダイレクトボンディングと保険診療のコンポジットレジン充填

保険診療の白い詰め物にも、コンポジットレジンが使われています。ダイレクトボンディングも同じ種類の材料を歯に直接詰める治療ですが、使用する製品や色の組み合わせ、防湿、研磨など、実際の処置内容には違いがあります。

当院では、詰めた部分を周囲の天然歯になじませたいというご希望に対し、色と透明度の異なる材料を重ね、表面の艶まで整えます。そのための材料と手順を、保険診療で行われる処置の一例と比較すると、次のようになります。

 

当院のダイレクトボンディング

保険のレジン充填の例

素材色と光の透け方が異なる複数のコンポジットレジンを用います。保険で認められた材料
防湿 ラバーダム(ゴムのシート)で、治療する歯だけを外に出し、周囲から隔てます。綿や吸引などによる簡易防湿
色合わせ多数の色を層に分けて重ねます。1〜2色
研磨5段階以上 1〜2段階
治療時間60分15〜30分
費用66,000円(税込)保険の一部負担金

※ 保険診療の欄は処置内容の比較例であり、制度上の上限や全国の平均を示すものではありません。使用する材料、色数、防湿方法、研磨方法、治療時間は、医療機関や歯の状態によって異なります。

色と透明度の異なるレジンを重ねるのは、詰めた部分を周囲の歯の見え方に近づけるためです。ラバーダムによる防湿は接着面への唾液などの混入を防ぐため、研磨は表面の粗さを減らして艶と滑らかさを整えるために行います。それぞれに異なる目的があります。

仕上げでは、食べ物が挟まる原因となる隙間や段差がないか、フロスが通るか、噛んだときの接触に問題がないかを確認します。当院では、色や形を整えることと、食事や清掃で使う部分を仕上げることを含めて、奥歯1本に約60分のお時間を頂戴しています。

参考資料

ADAの永久歯う蝕修復ガイド(脚注11・15)

治療例

奥歯のダイレクトんボンディング治療例(術前)
奥歯のダイレクトんボンディング治療例(術後)

費用 66,000円(税込) ※ 税抜 60,000円

治療回数 通常は1回で完了します。難しい症例では2回に分かれます。

リスク:経年的な着色、欠け、摩耗が生じる可能性があります。術後の一時的な知覚過敏の可能性があります。歯の状態やかみ合わせが変化すれば、将来、再治療が必要になることがあります。

参考文献・資料

  1. Reeh ES, Messer HH, Douglas WH. Reduction in tooth stiffness as a result of endodontic and restorative procedures. J Endod. 1989;15:512–516. 歯質の喪失と歯のたわみやすさを調べた基礎研究。
  2. FDI World Dental Federation. Repair of Restorations. 2019. 研磨・補修・交換を個別に判断するための声明。
  3. Münchow EA, et al. Influence of surface moisture condition on the bond strength to dentin of etch-and-rinse adhesive systems. Braz J Oral Sci. 2014;13(3). 接着システムと象牙質の水分条件についての基礎研究。
  4. American Dental Association. 永久歯のう蝕修復に関するチェアサイドガイド. 2024. う蝕除去と直接修復材料の選択に関する推奨。
  5. Eom AH, et al. Optical characteristics of resin composite before and after polymerization. 2011;36:219–230. 硬化前後の色・透明度・屈折率の変化を調べた基礎研究。